コラム

夏季休暇が原因となる労務トラブルとは?特別休暇制度で運用する注意点を解説

夏季休暇が整備されていても、実際の運用で労務に関するトラブルや混乱が起きてしまうケースは少なくありません。例えば、「休暇申請しづらい雰囲気がある」「休暇中も連絡がきて実質的に休めない」「パートへの説明が不十分だった」など、制度と実態のズレが生じてしまうケースがあります。そこで本記事では、夏季休暇を特別休暇制度として、7月〜9月の間で任意の連続休暇取得を認めている企業向けに、制度を見直すための5つのチェック項目、そして社労士と連携するメリットを解説します。

夏季休暇とは

厚生労働省の「特別休暇制度導入事例集2022」によると、夏季休暇は特別休暇制度※1として記載されています。しかし、実際の制度設計や運用の実態は企業によって異なります。

例えば、

・「特別休暇制度」として、7月〜9月の間で任意の連続休暇取得を認めているケース
・年間カレンダーでお盆期間をあらかじめ「所定休日」※2とするケース
・年次有給休暇※3を「夏季休暇」として取得することを推奨するケース

など、形態も付与条件も様々です。
単に「夏季休暇がある」と言っても、それが特別休暇制度なのか、所定休日なのか、あるいは有給取得を促す制度なのかを整理しておくことが重要です。

ここから先は、特別休暇制度による夏季休暇を運用している企業の注意点について触れていきます。

※1 特別休暇制度とは、労使による話し合いを通じて、休暇の目的や取得形態を任意に設定できる法定外休暇のこと。
※2 所定休日とは、企業が労働契約や就業規則により定めた休日のこと。
※3 年次有給休暇とは、所定休日以外で、賃金の支払いを受けて仕事を休める日のこと。

夏季休暇を見直すための5つのチェック項目

特別休暇制度による夏季休暇は、ただ整備するだけでなく、実際に活用される制度にすることが大切です。そのためには、次の5つの観点から見直しておく必要があります。

① 就業規則に制度が明記されているか

夏季休暇を「特別休暇制度」として設ける場合は、労働基準法第89条に基づき、その内容(対象者・日数・取得方法・有給/無給など)を就業規則に明記しなければなりません。

② 雇用形態を問わず、公平に説明・運用されているか

「正社員には制度があるが、パートには説明されていない」といった状況は、従業員の不満につながります。対象を限定する場合でも、その理由や背景を丁寧に共有することが大切です。

③ 勤怠管理・給与計算との整合性が取れているか

「勤怠入力画面に特別休暇制度区分がない」「無給の特別休暇制度だったにもかかわらず、有給扱いで処理されていた」といったミスは、勤怠システムの設定や実務担当者間の認識相違によって生じる可能性があります。そのため、制度と実務処理が連動しているかを、定期的にチェックする必要があります。

④ 休暇中の対応ルールが明確か

「休暇中でも何かあれば連絡して」といった曖昧なルールが社内で浸透してしまうと、従業員は休暇中でも完全に業務から離れられず、気兼ねなく休むことができません。緊急時の対応ルール・代替対応者・連絡ツールのステータス設定などをあらかじめ取り決めておくと安心です。

⑤ 制度の周知と教育が行き届いているか

夏季休暇が単に整備されているだけでは不十分です。従業員が「知っている」「理解している」「安心して使える」といった状態で、初めて制度は機能します。説明会やマニュアル、マネージャー向け研修などを通じて、全社的な理解を促す仕組みをつくることが求められます。

社労士を活用すべきタイミングとは?

夏季休暇の点検や改善に取り組む中で、「この判断は正しいのか?」「他社はどうしているのか?」といった疑問が浮かぶこともあるでしょう。そうしたときこそ、社労士を活用することが効果的です。社労士は、法令遵守を前提としつつ、企業ごとの実情に即した対応ができる労務の専門家です。以下のような状況に当てはまる場合は、早めの相談をお勧めします。

1. 就業規則の確認・見直しが必要なとき

「自社の夏季休暇の内容を正確に把握できていない」「特別休暇制度としての夏季休暇を正式に導入したい」などと考えた場合、就業規則の確認や見直しが必要になります。しかし、法令上の要件を満たしながら、自社の実態にも合うような文面に整えるのは容易ではありません。

そこで社労士は、

・必要な項目の明確化
・記載文例の提示
・労働基準監督署への届出

といった一連の業務フローを的確にサポートしてくれます。

2. 制度に対する従業員の不満・誤解が増えているとき

次のような声が現場からあがってきたら要注意です。

・「夏季休暇があると聞いたのに、自分は対象外だった」
・「説明が足りず、有給だと思っていた」
・「申請したいが、上司の顔色が気になる」

こうした声が放置されると、従業員の不信感が高まり、人材定着率にも影響します。社労士はこのようなケースで、実際の声を踏まえた制度の見直しや、制度の使い方に関する社内向け説明資料の作成・研修もサポートできます。

3. 多様な働き方への対応が追いついていないとき

近年は、リモートワークやフレックス、副業、時短勤務など、多様な勤務形態が急速に拡がっています。それに伴い、休暇制度の運用も複雑化しています。

例えば、

・「チャットでのやりとりは労働時間に含まれるのか?」
・「夏季休暇と有給の違いをどう説明するか?」
・「副業や業務委託者には夏季休暇をどう対応するか?」

といった現場で悩みやすい内容にも、社労士は法的な根拠をもとに、実務として運用できる解決策を提示できます。

4. トラブル発生や労基署対応に備えておきたいとき

制度運用のミスが原因で、労働トラブルに発展することや、労働基準監督署の調査が入ることもあります。以下のような事例は、その引き金になりやすいものです。

・休暇中も対応を求めた結果、「労働時間だ」と主張される
・制度の運用が雇用形態によって異なり、「不公平だ」と指摘される
・特別休暇制度を有給と誤解されて取得した結果、「未払い賃金」だと認識される

こうしたケースでは、トラブル発生前の予防が求められます。社労士は、労務リスクの洗い出しや、制度改定の提案、労基署対応時の立ち会い・助言も可能です。

5. 制度があっても使われていないと感じるとき

就業規則に制度はあるものの、実際には誰も申請していない状態は、制度が形骸化しているサインです。

この背景には、

・制度に対する遠慮や誤解
・管理職の理解不足
・社内における文化・雰囲気の壁

といった、人の気持ちに関わる要因があることも多く、社内のみでは対応が難しいケースもあります。
そこで社労士は、制度の背景にある人間関係や組織文化にも配慮しながら、

・マネージャー向けの研修
・制度活用を促す社内報
・Q&Aリストや説明会の実施

などを通じて、制度の浸透と活用までサポートすることも可能です。

まとめ

特別休暇制度による夏季休暇は、単に整備すればよいものではありません。重要なのは、「現場で使える」制度として機能しているかどうかです。制度と実態にズレがあると、従業員の不満や誤解を生み、最終的には企業の信頼や法的リスクにも影響を及ぼします。自社だけで解決が難しいときは、労務の専門家である社労士の力を借りて、「現場で使える制度づくり」と「実務に落とし込んだ支援」によって、制度をアップデートしていきましょう。

労務の灯台 編集部

ハタラクデザイン合同会社が運営するWebメディア「労務の灯台」編集部。様々な角度から社労士の関連情報をお届けすることで、自社の価値観に合った社労士を見つけてもらいたいと奮闘中。

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