コラム

賞与支給前に見直すべき「人事評価制度」のポイントを解説

賞与の支給は、企業にとって従業員に成果や貢献度を伝える重要な機会です。しかし、支給するタイミングは「評価に対する不満」が最も表面化しやすい時期でもあります。「どうして自分の評価はこれだけなのか?」「何を基準に賞与額が決まっているのか分からない」そうした声が社内で広がれば、従業員のモチベーション低下や、離職につながるリスクがあります。本記事では、人事評価制度のポイントをどう見極めるか、そして社労士がどのようにサポートできるのかについて、わかりやすく解説します。

従業員の不満を生む「人事評価制度」

人事評価制度に関して、企業でよく見られる課題には次のようなものがあります。

上司によって判断が異なり、納得感が得られない

フィードバックの機会が少なく、自分の成長を実感できない

賞与額の決定基準が明示されておらず、不透明に感じる

これらの課題は、人事評価制度そのものに原因がある場合です。この他にも、課題となる原因が、制度の「中身」ではなく「伝わり方」にある場合もあります。制度そのものの整備だけでなく、従業員がその制度をどのように理解しているかも重要なポイントになります。「伝わり方」に原因がある場合は、次のようなものが挙げられます。

人事評価制度は整っているのに、従業員に認知されていない

評価基準が存在していても、言葉があいまいで明確に伝わっていない

賞与に関する説明がないため、評価や報酬に対する不信感が高まっている

これらの状況は、特に賞与や昇給のタイミングで表面化しやすく、従業員の離職理由の上位に挙げられる「評価への不信感」に直結する深刻な問題となります。

人事評価制度の改善策

人事評価制度の整備や見直しは、人事や経営者だけで行うと、社内目線の偏見や先入観にとらわれてしまうケースが多いです。また、「労働法と就業規則の整合性がない」「上司との関係性がありフィードバックできない」「本音を聞く場がない、聞いても対処できない」など様々な問題が発生します。

こうした状況を改善するためには、自社のみで対応するのではなく、アウトソーシングすることが効果的です。人事評価制度をアウトソーシングするパートナーとしては、次の2つが考えられます。

 

コンサルティング会社

社労士

経験・知見

豊富な事例・分析手法

労務視点に基づく制度対応

期間

プロジェクト単位

顧問として長期的に関与

対応範囲

制度設計・運用支援中心

労働法・就業規則・評価制度まで一貫対応

現場との距離感

一定の距離がある

日常の相談から実態把握が可能

コンサルティング会社は、人事評価に対する知見や実績が多くあり、プロジェクト単位で成果を上げるといった特徴があります。一方、社労士は人事評価制度を単なる制度設計に終わらせず、「現場に根づく制度」として継続的に機能させるといった特徴があります。

また、場合によっては、コンサルティング会社と社労士の両方に依頼するケースもあります。例えば、人事評価制度の設計を専門とするコンサルティング会社が土台を整え、そこに社労士が関わることで、より実態に合った制度の運用と定着を実現する、といった補完関係を活かしたケースになります。

しかし、ここで押さえておくべきポイントは、人事評価制度を「現場に根づく制度」として継続的に機能させるということです。普段から労務顧問として企業と伴走している社労士であれば、従業員との関係性や職場の雰囲気、過去の労使トラブルの傾向など、会社の実態を理解したうえでの実践的な提案が可能になります。

以上を踏まえ、ここからは、人事評価制度の対応が可能な社労士に依頼することで具体的にどのようなサポートが期待できるのかを見ていきましょう。社労士が人事評価制度に関わる主な業務として下記の5つが挙げられます。

①人事評価制度の設計

企業の経営戦略や社風、組織体制に応じて、目標管理制度(MBO)や360度評価などの制度設計や、人事評価シートの作成を行います。

このように、抽象的な評価ではなく、評価項目の可視化を進める支援を行うことで、「何を評価しているのか」が分かり、従業員の納得感を飛躍的に高めることができます。

②導入時のサポート

「人事評価制度は整っているのに、従業員に認知されていない」という状況を防ぐために、従業員向け説明資料の作成や、キックオフ説明会の実施など、制度の社内浸透を行います。

③評価のアドバイス

導入後は、評価の進め方やフィードバック面談の方法について、現場の状況を踏まえた実践的なアドバイスを提供します。

具体的には、「人事評価制度のモニタリングを行い、評価が適切に行われているか、形骸化していないかを社労士が第三者の視点で点検すること」や、「フィードバック面談で何をどう話すべきかが分かる評価コメント例文の提供や、面談の構成テンプレート作成を行うケース」などがあります。

④制度の継続的な見直し

事業や組織の変化に合わせるために、定期的に人事評価制度の実施状況や社内の反応をヒアリング・分析し、制度のブラッシュアップを行います。

また、労働法や社会保険制度の改正があった際には、制度の運用が法令に抵触しないよう、即座に就業規則や各種規程の見直しを行います。

⑤賃金制度との連携

人事評価制度があっても、実際の賞与や昇給と明確にリンクしていなければ意味がありません。評価と連動する賞与・昇給制度、等級・資格制度の設計も社労士の領域です。成果に見合った処遇が反映される仕組みづくりで、従業員の納得感と生産性を向上させます。

上記5つのサポート内容は、人事評価制度の対応が可能な社労士であっても、全て対応可能な社労士と、部分的な対応が可能な社労士に分かれます。

まとめ

賞与支給前は、従業員の評価に対する不満が表面化しやすい時期です。この時期にこそ、人事評価制度の透明性と納得感が企業の信頼構築に直結する重要なポイントとなります。

不明瞭な評価基準や不十分な制度の伝達は、従業員のモチベーション低下や離職の引き金となる恐れがあります。そのため、人事評価制度の「中身」だけでなく、「伝え方」にも目を向け、制度の設計・運用・浸透を一貫して見直すことが必要です。その際、第三者である社労士の専門的な支援を活用することで、制度の客観性と実効性を高めることができます。

賞与支給を単なる報酬の分配に留めず、従業員との信頼関係を築く機会ととらえ、人事評価制度の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。

労務の灯台 編集部

ハタラクデザイン合同会社が運営するWebメディア「労務の灯台」編集部。様々な角度から社労士の関連情報をお届けすることで、自社の価値観に合った社労士を見つけてもらいたいと奮闘中。

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