職場でのいじめや嫌がらせは、単なる「職場の問題」にとどまらず、企業の存続や信頼性に悪影響を及ぼす原因となります。近年、この問題が深刻化しており、企業が対応を怠ることで法的トラブルや経済的損失、さらには従業員の士気低下を招く恐れがあります。本記事では、いじめや嫌がらせが企業に与えるリスクを具体的に解説し、労働紛争を未然に防ぐために必要な対策方法をお伝えします。
厚生労働省が発表した「令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は120万1,881件に達し、5年連続で120万件を超えています。その中でも特に多く寄せられている相談が「いじめ・嫌がらせ」に関する相談で、令和6年度は54,987件にのぼり、13年連続で最多の結果となりました。
「いじめ・嫌がらせ」は職場内の人間関係にとどまらず、従業員のメンタルヘルスに深刻な影響を与える問題です。これが生産性の低下や企業業績への悪影響を引き起こすこともあります。このような労働紛争を適切に対処しない場合、従業員の心身にダメージを与えるだけでなく、企業の信頼も失われてしまいます。
いじめや嫌がらせの問題を放置しておくことは、企業にとって数々のリスクを生じさせます。以下に、主なリスクとして3つご紹介します。
いじめや嫌がらせは、労働契約法第5条や改正労働施策総合推進法によって、法令違反とみなされる場合が多く、従業員からの訴訟や行政指導を受ける可能性があります。特にパワーハラスメントやセクシャルハラスメントに関する法的規制は厳しく、違反が発覚すると、企業に対して高額な賠償金を求められることもあります。さらに、労働基準監督署からの調査が発生するリスクも存在します。
いじめや嫌がらせが原因で訴訟や行政指導を受けることになれば、それに伴う法的費用などが発生します。さらに、企業の評判が傷つくことで、顧客や取引先との信頼関係に亀裂が生じる可能性があります。信頼の喪失は、取引の減少や新規顧客の獲得に支障をきたし、長期的には売上の低下を引き起こします。このように、企業全体の業績に悪影響を与える経済的リスクとなります。
いじめや嫌がらせが職場で発生すると、従業員の士気が大きく低下し、仕事へのモチベーションが失われます。これにより、離職率が高まり、優秀な人材の流出が増えます。また、職場内のチームワークが崩れ、協力やコミュニケーションが不足することで、生産性も大きく下がり、企業の成長が停滞する要因となります。
企業は、いじめや嫌がらせなどの労働紛争が発生しないよう予防策を講じることが大切ですが、万が一、問題が起きた場合には、迅速かつ適切な対応が求められます。個別労働紛争解決制度は、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、迅速に解決を図るための制度で、具体的には以下の3つの方法があります。
全国の都道府県労働局や労働基準監督署を含む379か所(令和7年4月1日現在)に、労働問題に関するワンストップ相談窓口「総合労働相談コーナー」が設置されています。専門の相談員が対応し、企業や労働者のあらゆる労働問題に関する相談を受け付けています。
総合労働相談コーナーでは、労働問題に関する情報提供や個別相談を行っており、関連する法令や裁判例の解説、助言・指導制度、あっせん制度の説明も実施しています。さらに、必要に応じて、裁判所や法テラスなどの関連機関と連携して支援を行っています。
民事上の個別労働紛争において、都道府県労働局長が解決の方向を示すことで、当事者が自主的に問題解決できるよう支援します。助言は当事者の話し合いを促進するため、口頭または文書で行われます。一方、指導は問題がある場合に、問題点を指摘し、解決に向けた方向性を文書で示すものです。
助言・指導を受けるには、都道府県労働局の雇用環境・均等室または最寄りの総合労働相談コーナーに申し込み、申請後、都道府県労働局長による助言・指導が行われ、問題が解決すれば終了となります。解決しなかった場合は、あっせんへの移行や他の紛争解決機関の紹介が行われます。
あっせんは、都道府県労働局に設置された紛争調整委員会が、労働問題に関する紛争を解決するために、弁護士や大学教授などの専門家(あっせん委員)が間に立って話し合いを進める制度です。この方法により、当事者間の合意を促し、紛争を解決へと導きます。
あっせん手続きの流れは、まず、申請書を都道府県労働局、または、総合労働相談コーナーに提出します。その後、都道府県労働局長が紛争調整委員会にあっせんを委任し、あっせんの開始通知と参加意思確認が行われます。参加する場合、あっせん期日が決まり、あっせんが実施されます。
個別労働紛争解決制度を活用することで、企業は、いじめや嫌がらせなどの労働紛争に対処できますが、社労士および特定社労士のサポートを受けることも効果的です。
社労士は、企業の就業規則や労働契約書の作成・見直しをサポートします。これにより、企業内で発生しやすい誤解やトラブルを未然に防ぎ、労働条件や職場ルールを明確化します。また、社労士は、いじめや嫌がらせを防ぐためのポリシーや職場のハラスメント防止の整備にも貢献します。これにより、企業の労働環境が法令に適合するとともに、従業員同士の適切な関係を築くための基盤が整い、職場での不適切な行動を抑止することができます。明確で公正なルールを設けることで、企業と従業員双方が安心して働ける環境を提供し、いじめや嫌がらせの発生を防ぐことができます。
社労士は、いじめや嫌がらせが職場で発生した場合、労働法に基づいた適切な対処法のアドバイスが可能です。企業と従業員間で発生する様々な労働問題の調整役として、円満な解決へ導くためのサポートを行い、対立を最小限に抑え、労働者と企業の信頼関係を維持します。また、法的なアドバイスを通じて、適切な手続きや対応策を講じることで、いじめや嫌がらせの再発防止にも貢献することができます。
特定社労士は、社労士資格に加え、厚生労働大臣が定める研修と紛争解決手続代理業務試験に合格し、その旨が社労士名簿に付記された専門家です。社労士も企業と労働者間で発生した労働問題の解決に向けたアドバイスやサポートを行いますが、特定社労士は、裁判外紛争解決手続(ADR)において、当事者の代理人として、労働紛争の解決をサポートできます。これにより、企業は労働者との信頼関係を維持しつつ、問題解決に向けた効率的なアプローチが可能となります。
職場でのいじめや嫌がらせは、企業にとって重大なリスクを引き起こす可能性があります。法的リスクや経済的損失、従業員の士気低下など、問題を放置することで企業にとって深刻な影響を与えることになります。しかし、労働紛争が発生した場合でも、早期に適切な対応をすることで、リスクを最小限に抑えることができます。
個別労働紛争解決制度を活用することにより、企業は問題を迅速かつスムーズに解決することが可能です。総合労働相談、助言・指導、あっせんなどの制度を利用し、問題を早期に解決することが、企業にとってのリスク管理に繋がります。
また、社労士や特定社労士の専門的なサポートを受けることで、より効果的な対策が可能となります。社労士は労働環境の整備や法的なアドバイスを提供し、いじめや嫌がらせを防ぐための環境整備にも貢献します。特定社労士は、労働紛争の解決において、あっせん手続きの代理人としても活動することができ、企業と労働者間の信頼関係を守りながら問題解決をサポートします。
いじめや嫌がらせのない職場づくりは、企業の健全な成長と従業員の満足度向上に繋がります。今すぐ、適切な対応や専門家の支援を受け、職場内でのいじめや嫌がらせを予防・根絶するための第一歩を踏み出しましょう。
労務の灯台 編集部
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