コラム

2025年1月からの電子申請の義務化と、その対応方法を解説

社会保険・労働保険手続の電子申請の義務化は、2020年4月から特定法人を対象としたことに始まり、2025年1月からは労働安全衛生関係の一部手続が対象とされることになりました。このように、政府は今後も更に電子申請を普及させることで、社会保険・労働保険手続の簡素化を進めていく見通しです。 しかし、単にデジタルに置き換えただけでは、手書きなど紙で申請する場合と手間が変わらないこともあります。そこで、本記事では、2025年1月から新たに対象となった電子申請の義務化の内容と、業務効率化をはかりながら電子申請を行う体制を整えるにはどうすればいいか対応方法を解説していきます。

労働安全衛生関係の一部手続の電子申請が義務化

2025年1月1日より以下の手続について、 電子申請が原則義務化されます。

労働者死傷病報告

総括安全衛生管理者/安全管理者/衛生管理者/産業医の選任報告

定期健康診断結果報告

心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告

有害な業務に係る歯科健康診断結果報告

有機溶剤等健康診断結果報告

じん肺健康管理実施状況報告

出典:労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます(令和7年1月1日~)

対象の手続きからすると、特に製造業や建設業は該当する可能性が高いため、注意しておきましょう。
上記手続きを電子申請で行う際、電子署名や電子証明書の添付は不要です。また、今まで労基署に訪問や郵送していた手間もなくなり、時間や場所にとらわれず、スマホやパソコンだけで手続きを完了させることができるようになります。

電子申請の対応方法

電子申請が義務化される手続きを把握したはいいものの、実際にどのように進めていけばいいのでしょうか。方法としては下記の3パターンがあります。

①e-Govを活用して自社で申請する

②電子申請APIを活用して自社で申請する

③社労士に依頼する

①e-Govを活用して自社で申請する

e-Govとは、行政情報が得られるポータルサイトです。行政手続きの電子申請を行うこともでき、「電子政府の総合窓口」と呼ばれています。このe-Govで電子申請をする際には、まず、アカウントの準備を行う必要があります。

e-Govで利用できるアカウントサービスは、「e-Govアカウント」、「GビズID」、「Microsoftアカウント」の3つですが、お勧めは「GビズID」を活用することです。

GビズIDとは、1つのアカウントで複数の行政サービスにログインできる認証システムです。そしてGビズIDには、「 GビズIDプライム」、「GビズIDメンバー」、「GビズIDエントリー」という3種類のアカウントがあります。サービスにより必要なアカウントが異なりますが、詳細は「行政サービス一覧」で確認できます。このGビズIDを利用するためのアカウント発行方法は3種類のアカウントで異なります。GビズIDプライムでは、申請方法として書類郵送申請とオンライン申請がありますが、オンライン申請を選択することで最短即日発行ができます。ただし、法人の種類によっては書類郵送申請のみ対応可能で、この場合、発行まで1週間程度かかり別途書類の準備が必要になります。GビズIDメンバーとGビズIDエントリーでは、審査不要で即日発行することができます。

メリットは、24時間いつでもどこでも利用できることやペーパーレス化を進められる点が挙げられます。これにより、労基署までの移動時間や待ち時間をなくし業務効率化を進められ、紙代や交通費などのコスト削減や書類管理の手間をなくすことができるでしょう。その他には、GビズIDプライムとGビズIDメンバーの場合、電子証明書の添付が不要で取得費用もかからないことや、e-Gov以外にも様々な行政サービスを利用できる点が挙げられます。

デメリットは、申請の際に手続き画面へ直接手入力が必要なため、結局、書類作成時の手間は手書きなど紙で申請する場合と変わらない点が挙げられます。その他には、ログイン時にSMSを用いた二要素認証が必要なため、会社でスマートフォンや携帯の準備がない場合や、業務上個人のスマートフォンや携帯の使用を禁止している場合も注意が必要な点が挙げられます。

GビズIDアプリにて、ログイン時のSMSを用いたワンタイムパスワード認証はセキュリティ上の観点から2025年3月を目途に廃止予定です。

出典:デジタル庁「GビズID」

2025年1月1日より、原則義務化される労働安全衛生関係の一部手続の電子申請についても、GビズIDで対応可能です。ただし、書類作成時の手間は紙の申請と変わらず手入力する必要がある点には注意しておきましょう。

②電子申請APIを活用して自社で申請する

電子申請API対応のソフトウェアを用いることにより、API対象の行政手続について、申請データの作成から、申請、公文書取得までのすべての機能をソフトウェア上から行えるようになります。先の①では必要だったWebサイト上からの操作は不要となり、操作方法や進捗管理が簡潔に行えるようになります。

・APIを利用した申請の特徴

労務会計ソフトウェア等に入力してあるデータからそのまま電子申請を行うことができる。

審査状況の確認や公文書の取得も労務会計ソフトウェア等の中での操作として行える。

到達番号と従業員データの紐付けが容易になり、進捗管理が行いやすくなっている。

労務会計ソフトウェア等の操作とWebブラウザ上の操作を往復せずに済む。

プログラムにて反復動作の組み込みが可能な為、大量・反復的な申請を行う場合に大幅な手間の軽減が見込める。

外部のソフトウェア側にて申請画面を独自に作ることができる為、利便性・操作性の改善が見込める。
(注 ソフトウェアの仕様により、これらの特徴に合致しないこともあります。)

出典:ソフトウェアを利用した電子申請

・API対応ソフトウェアの選び方
社会保険・労働保険手続の電子申請ができるAPI対応ソフトウェアは数多くあり、詳細は「API対応ソフトウェア・サービス一覧」で確認できます。それぞれに強みがありますが、基本的には「対応帳票数が多い」「ローコストで導入可能」「操作性がよいもの」を選ぶとよいでしょう。

③社労士に依頼する

先の①②では、社内リソースを割いてしまう点が挙げられますが、社労士に依頼することで、その点も大幅に改善できます。同時に手続きの正確性も上がり、労務担当者の不安や負担の軽減にも繋がるでしょう。また、手続きのアウトソーシングによって、これまで社内で発生していた、教育コスト・コミュニケーションコスト・管理コスト・人件費など、様々なコスト削減効果も期待できます。

コスト削減効果をもう少し具体的に説明すると、離職リスクや採用コストが挙げられます。例えば、労務は属人化しているという会社は少なくはないでしょう。社労士に依頼してない会社において、労務担当者が離職してしまえば、会社の事務機能は停止しかねません。そうなった場合、社内で別の業務担当者に引き継いでもらうか、新たな人材を採用する必要があります。

社内で別の業務担当者に引き継いでもらう場合、既存業務から更に新しい業務が上乗せになるので負担も大きく、不満も生まれやすくなるため、更なる離職を引き起こす可能性があります。また、新たな人材を採用する場合、採用コストが必要になります。「採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査」によると、紹介会社の1件当たりの平均採用コストは、正社員が平均85.1万円、非正社員は平均19.2万円となっています。

出典:令和3年度厚生労働省委託調査 採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 報告書

社労士に依頼することで、労務が属人化している状態から、労務の専門家へのアウトソーシングが可能になるため、離職リスクや採用コストに対処できる可能性が高まります。社労士が提供しているサービス内容の確認はもちろん、月額顧問料などと比較して、あらかじめリスクヘッジしておくことが大切です。
しかし、ここで注意が必要なのが、自社にとって相性の悪い社労士と契約してしまうことです。現在、日本には4万人以上の社労士がいますが、一概に「社労士」と言ってもサービスの内容や強み・弱み、想いは様々で、これらすべてが全く同じ社労士はいないでしょう。そのため、自社の価値観に合った社労士を探す必要があります。

まとめ

2025年1月1日から、労働安全衛生関係の一部手続の電子申請が義務化されることを確認しましたが、そもそも社会保険・労働保険手続の電子申請の義務化が進むことで、必ずしも今より効率的な業務が行えるようになるという訳ではありません。電子申請を行う方法として、自社にとってより効果のあるものを見つけだし、本業に専念する時間を増やしましょう。本記事が皆様の経営スタイルに合った労務環境整備のお役に立てれば幸いです。

労務の灯台 編集部

ハタラクデザイン合同会社が運営するWebメディア「労務の灯台」編集部。様々な角度から社労士の関連情報をお届けすることで、自社の価値観に合った社労士を見つけてもらいたいと奮闘中。

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